基礎意識モデルを超えて ――ベラル層による媒介構造とクオリア生成の不可逆的三段階モデル――
Abstract
近年、意識を物理現象の副産物としてではなく、現実そのものの基盤として捉える理論的試みが再び注目を集めている。汎心論や基礎意識モデル、ならびにそれらに近接する場の理論的アプローチは、意識を派生的な性質としてではなく、宇宙論的に根源的な存在として位置づける点で共通している。しかしながら、これらの理論の多くは、非二元的な基盤から、具体的で私有的な体験がどのような内部構造を経て生成されるのかについて、明示的かつ構造的な説明を欠いている。 本論文は、この欠落を補うことを目的とし、意識を基礎とする立場を否定するのではなく、それを生成理論として完成させるための内部アーキテクチャを提示する。具体的には、体験生成を単一の連続的写像として扱う従来の枠組みに代えて、整合ポテンシャル、ベラル層、現象領域からなる三層構造モデルを導入する。本研究の中心的貢献は、整合ポテンシャルと現象領域のあいだに位置する、意味や主体性を生成しない透明な媒介層としてのベラル層を定義した点にある。 さらに本論文では、体験が①体験の成立、②クオリア生成、③クオリア獲得、という不可逆な三段階構造を経て生成されることを論じる。この区別により、感覚の質(クオリア)が主体に帰属する以前の段階で生成されうること、そして主体性や自己性が体験の原因ではなく、体験獲得の過程において後成的に成立する構造であることが明確化される。 この三段階モデルは、人工システムがクオリアを獲得できない理由を、能力や複雑性の不足ではなく、構造的差異として説明する枠組みを与える。また、観測や意味づけに先行する前観測的条件としての「構え(Kamae)」の概念を導入することで、同一の基盤状態から異なる体験が生成されうる理由を、主観的恣意性に還元することなく説明する。 本研究は、意識を宇宙の基礎場とみなす理論的立場を補強するものではあるが、同時にそれらに対して批判的である。すなわち、本論文は「意識が基礎である」という主張そのものよりも、「基礎から体験がいかにして生成されるのか」という構造的問いに焦点を当てる。ベラル層と不可逆的三段階モデルの導入により、非二元性を保持したまま体験が分化する過程を記述可能とし、意識研究における生成論的枠組みの一つの完成形を提示するものである。
Fields of Study & Subjects
Philosophy and Theoretical Science
Phenomenology and Existential Philosophy
Embodied and Extended Cognition
Publication details
- Journal / source
- Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)
- Publication date
- 31 January 2026
- Language
- JA